分子模型の製作

発泡スチロールと爪楊枝でつくるシクロヘキサンの分子模型

九大院理 伊藤芳雄

 [はじめに]

 化学の教科書には、「シクロヘキサン(C6H12)は安定なイス形配座をとり、水素はアキシアル位に6個、エクアトリアル位に6個ある。環反転するとアキシアルとエクアトリアルの位置関係が入れ替わる。」というようなことが書かれています。このことを理解するためには分子模型を手で動かしてみるのがよいのですが、市販の分子模型は数千円から数十万円もするので誰もが購入するものではありません。そこで、安く(あるいはただで)手に入る発泡スチロールと爪楊枝を材料として、シクロヘキサンの分子模型を作りました。

  材料:発泡スチロール、爪楊枝

  道具:物指し、カッター、鉛筆など

 [作り方]

1)発泡スチロール(切る時に静電気が起こり難いものの方がよい)をカッターなどを使って一辺3センチメートル程度の立方体(大)に(正確に)切る。これを6個つくる。また、一辺0.7センチメートル程度の立方体(立方体でなくてもよい)(小)を12個つくる(6個ずつ二色に色つけしておくとよい)。

2)爪楊枝の手で持つ方にくびれがついているが、そのニ倍程度の所に鉛筆で線を引いておく。先の方にも同じ長さの所に線を引いておく。(18本以上必要)

3)爪楊枝を立方体(大)の角から突き刺す。爪楊枝の先が立方体のちょうど反対側の角から出るように何度か出し入れし、出てきた先を鉛筆で印をつけた線の所まで引っ張り出す。

4)ニ本目の爪楊枝を、一本目の爪楊枝の横の角から刺して同様に反対側の角から鉛筆の線まで引っ張る。三本目、四本目の爪楊枝を同様に一本目の爪楊枝の横の角からさして反対側の角から鉛筆の線まで引っ張る。(これに小さな発泡スチロールを四本の爪楊枝の先に各々つければメタンの分子模型ができあがる。ここで、二つの爪楊枝がなす角は約109.5°となる。)

5)残りの立方体(大)にも同様に爪楊枝をさして「結合」をつくる。

6)爪楊枝を抜き差しして6個の立方体(大)を環状につなげるとシクロヘキサンの骨格ができる。イス形配座になるように動かす。立方体(小)をつまようじの先に刺してできあがり。3回回転軸の方向にある水素がアキシアル(axial)、横方向を向いた水素がエクアトリアル(equatorial)である。アキシアル水素とエクアトリアル水素を色分けする。

[分子模型を利用した分子の配座解析]

[この模型のその後]

[おわりに]

 一般に分子模型というと、原子は球、あるいはそれに近い形で表したくなるものですが、109.5°を分度器などを使わずに作る(分度器を使っても結構難しい)となるとこの方法がよいと思います。立方体の中に正四面体が隠れているわけです。数学では習っていても普段は意識していません。

 原子の大きさや結合距離なども考慮して作ればもっと「正確な」分子模型が作れます。しかし、分子の配座解析の基礎的なことを理解するにはこの程度の「アバウトな」模型でも十分だと思います。

もっと大きな模型も作れますが、その場合は爪楊枝の代わりに竹ひごやだんごの串を使います。筆者は高校時代にDNAの分子模型を作りました。1.5mほどの高さになったと記憶しています。模型を作るとDNAの二重らせんが右巻になる理由が分ります。

 パソコンでChem3Dなどの化学用ソフトを使えば画面上で分子模型を作ることができます。近ごろのパソコンは性能もあがったので、ステレオビューで立体的に見ながら分子を動かすこともできます。それでも、まずは手で触れられる分子模型を使ってよく理解することは大切だと思います。