X-Band Electron Spin Resonance Spectrometer (JEOL JM-FE3)
この装置では、常磁性金属イオンにおける金属イオンの配位環境、錯体の配位子部位に局在化したスピンに対する情報の取得が可能である。スピンはその存在する環境に水素原子核(I=1/2 for 1H, I=1 for 2D)、窒素原子核(I=1 for 14N, I=1/2 for 15N)、白金核(I=1/2 for 195Pt in 33.8% natural abundance)などが存在する場合、電子スピンと各種常磁性核種との超微細相互作用を形成し、微細な分裂パターンを与えることになる。その分裂パターンを超微細構造(hyperfine structure)と呼び、その解析からスピンの局在箇所や分子構造などに関する知見を得ることができる。勿論、純粋な有機ラジカルの測定や、スピントラッピング試薬を用いる不安定ラジカルの検出も可能である。ただし、液体He温度(4.2 K)などの極低温まで温度を下げないと観測できないような弱い常磁性化合物などの検出には不向きである。そのような測定が必要な場合には液体He温度での測定が可能な施設の利用が必要となる。不対電子を磁場中に置くと不対電子の持つ磁気モーメントは外部磁場に対して配向することになる。磁気モーメントは熱運動状態にあるため、その運動がラーモア歳差運動を引き起こすことになる。その結果、磁気モーメントの配向状態は二つの状態へと量子化されることになる。さらに、これら二つの状態間のエネルギー差は比較的小さく、マイクロ波領域の電磁場のエネルギー(例えば、9.5 GHz = 約1010 s-1)に相当する。当然、各状態の占有率はボルツマン分布に従うが、エネルギー順位の差が比較的小さいため、その占有率はおおむね1:1となる。しかし、厳密に調べてみると、300 Kで999:1000程度であり、77 K(液体窒素温度)では994:1000、4.2 K(液体ヘリウム温度)では795:1000となる。低温に導くに従い、ESRの遷移確率が増すことを示している。つまり、ESRの信号強度は低温になるほど強くなる(参考文献:「実用ESR入門」 石津和彦、講談社サイエンティフィック)。
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