学科長・専攻長挨拶


 私はなぜ今ここ化学科・化学専攻の教授として日々研究と教育に携わっているのかと考えたとき、正直明確な理由は見当たりません。研究者を父にもち、研究者ってどんなものだろうという好奇心を抱きながら、この道に進んだと記憶しています。初めて卒業研究生として研究室に配属され、新しい化合物の合成や触媒反応への応用研究に着手して以来、ただ我武者羅に研究を行ってきたというのが正直なところです。好奇心にまかせて自由に研究対象を設定し、新規物質や新現象を探索するといういわばゲームのような取り組みに夢中になりました。誰かに決められたテーマではなく、自身の着想に基づいて研究を企画して目標を達成することの楽しみや喜びをあじわい、その虜になっていきました。勿論、その成果が高い評価を得た際には喜びもひとしおでした。ただし、そのような研究者個々の歩みが必ずしも実を結ぶとは限りません。残念なことに、昨今、それが役に立つ研究であるかどうかが問われがちな時代となっています。しかし、誰が如何なる基準で役立つ研究と役立たない研究を区別し、判断を下すかが問われます。実はそれこそが現在人類が抱えている難題の一つと思われます。研究費を配布する機関が時代の要請を鑑み、それに合致しない研究への研究支援を行わないのであれば、そうした研究の芽が制度的に摘まれる可能性も否めません。重要な可能性を秘めた研究が排除されかねない状況にあると言えます。私にとって「理学の精神」とは、そうした時代の要請とは無縁な立場から学問を進めることのできる崇高な精神に相当します。我々の理学部・理学府で行われる研究はそうした純粋な理学の精神にのっとり、好奇心のもと真理を探求する研究であって良いと思います。これまでにノーベル賞受賞対象となった研究の中には一見価値の見えない基礎研究と思われがちな研究が少なからず含まれています。これは個々の基礎研究の重要性や有用性を判定するのが難しいことを表す良い例です。現在化学科・化学専攻への進学を検討している方々には是非とも自由な発想のもとで自由に研究を展開する楽しみや喜びをあじわって頂きたいと思います。化学という学問は今後さらに発展していくことが大いに期待される学問です。成熟した知識と技能を身に付けると同時に、引き続き新たな知識と技術を開拓・開発していくことが望まれる学問です。今後さらに優れた化学研究の後継者を排出することが人類の未来社会を豊かにすることに大いに貢献すると期待しています。我々化学科・化学専攻の教員陣は次世代を担う優れた化学者の育成のため日々努力しています。好奇心旺盛かつ意欲ある新入生の入学を歓迎します。

学科長・専攻長
酒井 健




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