近年、化石燃料の枯渇や地球温暖化等の問題から、二酸化炭素(CO2)還元反応に注目が集まっています。 この反応はCO2をギ酸や一酸化炭素等の有用な有機化合物へと還元することでCO2を資源化する反応です。 この触媒として金属錯体を用いる系が長年研究されていますが、錯体触媒は固体触媒に比べ高い選択性を示す他、 応機構の詳細な解析や分子レベルでの設計が容易であるなどの利点を有しています。 電気化学的CO2還元反応の系においては、CO2還元反応がおこる理論電位ECO2/COと実際に反応を駆動するのに必要な電極電位Eとの差を過電圧といい、 この値が小さい程電気エネルギーの損失を抑えることが出来ます。したがって、理論電位ECO2/COに近い電極電位で二酸化炭素還元を触媒する優れた金属錯体触媒の開発が重要です。 ここで、様々な金属元素を有する錯体がCO2還元触媒として報告されていますが、コバルト錯体触媒に関しても多く報告がなされています。しかし多くのコバルト錯体触媒の場合、比較的穏やかな還元電位で生成するCo(I)種ではCO2と付加体を形成することができず、より高い負の還元電位で生成する配位子の還元種Co(I)(L・-) やCo(0)種でしかCO2と付加体を形成することが出来ません。そのため触媒反応を進行させるには大きい過電圧が必要であるという問題があります。 そこで私は、N-ヘテロ環状カルベン(NHC)を配位子として有するコバルトNHC錯体に注目し研究を行っています。 このような錯体では、NHC配位子がコバルト中心に対し強い電子供与性を示すため、コバルト中心の求核性が増加し、Co(I)種でCO2と付加体を形成できると期待しました。 そして実際に、この錯体はCo(I)種でCO2付加体を形成し、その結果370 mVという比較的小さな過電圧で触媒的にCO2還元反応駆動することが示されました。 さらにこの後の研究では、このようなコバルトNHC錯体が光化学的CO2還元反応においても触媒として機能することを明らかとしました。 現在は電気化学的、分光化学的測定、及びDFT計算により反応機構解析に取り組んでいます。